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インタビュー

Michael Franti & Spearhead

戦地に赴いた彼は、そこで何を観て、何を感じたのだろう。慈愛に満ちた力強い新作が、〈社会にとって本当に大切なものは何か?〉といま私たちに問うている

世界を変えることだってできるんだ


 マイケル・フランティ。20年近くに渡って生きることの喜びを歌い続け、一方で、あらゆる欺瞞に対して〈本当にそうなのかい?〉という問い掛けを発し続けてきた男だ。悪夢のような〈9.11〉。そこを起点に〈テロ撲滅〉という大義名分のもと勃発したイラク戦争。その戦争ではすでに〈9.11〉の犠牲者の数を越えるアメリカ人兵士の命が失われ、その何倍ものイラクの人々の命が失われている。何度も何度も繰り返され、尽きることがないように思える人間のこのような行為。憎しみの連鎖を断ち切る相互理解という名の唯一の手段を、〈あの悲しみを忘れるな〉という気持ちによって多くの人々が忘れかけているのではないか?という現実。そのことに対して危機感を持ち、みずからの意志でイラクやパレスチナに赴いて、戦火にさらされている一般市民と兵士たちの声を聞きながら人々の前でアコースティック・ギター片手に歌うことを実践してきたマイケル・フランティ。そんな彼から届いたマイケル・フランティ・アンド・スピアヘッド名義での(最新レポートのような)ニュー・アルバム『Yell Fire!』の話を、彼の発言を交えながらここで少しだけさせてもらおう。

――『Yell Fire!』はあなたの製作したフィルム「I Know I'm Not Alone」がきっかけになって生まれたアルバムだそうですが、残念ながらこの映画は未だ日本公開されていません。あなたの口からこの作品のこと(製作に至った動機や出来上がるまでの経緯など)を聞かせてもらえますか?

「日本でも公開する予定なんだ。ちょうどいま訳をつけているところだよ。イラク戦争のニュースで軍の司令官や政治家が人類の危機について語るのではなく、戦争の経済コストや政治コストについてばかり語っているのを聞いて凄く失望した僕は、ギターとカメラを持ってバグダッドへ行く決心をした。そして実際に行ってみて、そこのストリートで人々のために音楽をプレイしたんだ。聴きに来てくれた人たちにインタヴューして、彼らの人生について語ってもらって……その姿を撮ったのが〈I Know I'm Not Alone〉だよ。アメリカではバグダッドにいる普通の人々の生活は報道されない。だから、戦争が人々にどのような影響を及ぼしているかわからないんだ。いまイラクではほとんどの家庭に電気も水も食べ物も供給されていない。健康管理もなっていないし、仕事だってままならない。アメリカが爆弾を1つ落とすたびに、彼らの生活が元通りになるまで何十年もかかるんだ。病院に行って足を吹き飛ばされた子供たちと話をしたり、アメリカ軍兵士たちに会ったり、ウェストバンクにあるガザ地区で辛い思いをしている人々と会ったシーンなど、200時間以上ものビデオ・テープを87分のフィルムに編集していく過程でそれらを観直した時にいろんな感情が湧いてきたんで、ギターを手に曲作りを始めた。それがこのアルバムに収録されている曲になったんだ」

――ボブ・マーリーは“Small Axe”という曲を歌っています。この曲の歌詞があなたの訴えるメッセージと似ているように思えてならないのですが、それについてはどう感じますか?

「あの曲で彼は、世界の体制はあまりにも巨大だからそれを変えることはできないように思えるけれども、〈Small Axe(小さな斧)〉、つまり強い意志を持った人々が集まればいろんなことができるし、世界を変えることだってできるんだと言っている。僕はまさにそれをやろうとしているんだ。常に愛と平和に満ちた世界で生きていられるとは思わないけど、殺し合いの少ない世界で生きることはできると思う。僕はそこに自分の音楽を捧げているんだ」

 今作は、そのボブを世界に紹介したアイランドの元社長であり、旧知の仲であるクリス・ブラックウェルの助言によってジャマイカでレコーディングされた(その際にスライ&ロビーらとのセッションも行われている)。だからと言ってレゲエ・アルバムに仕上がっているわけではないが、ジャマイカ独特のオープンなレコーディング・スタイルは、彼の音楽により豊かな色彩感と奥行きを与えることとなったようだ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年10月12日 10:00

更新: 2006年10月12日 19:49

ソース: 『bounce』 280号(2006/9/25)

文/鈴木 智彦