インタビュー

rub-a-dub market(3)

最近何が気になってる?

 アイデアを考えることと、実際にギターを弾く行為の間に距離があるように、頭のなかで何となくぼんやりと浮かんでいる雰囲気をはっきりとサウンドに変える時、東京のクラブがカタリストとなったのだ。彼らが話しているとおり、東京のクラブは雑種文化性があり、それを(冒頭曲でフィーチャーしている)chico uppのMCのように稚拙であると批判することも可能だが、好奇心に任せて世界を眺めてみるある種の無邪気さと結び付け、経済的に発展した島国の音楽としての特徴というふうに理解することもできる。初期のダンスホール、エレクトロ、グライム、ジャングル……ニュー・アルバム『DIGIKAL ROCKERS』に集められた音楽の欠片は、最初から彼ら自身の内部から生まれてきたものではない(他の国で生まれたもの)。しかし、一定期間を経て、交錯した音楽的要素のすべては彼ら自身のアイデンティティーとなって、新作には他の誰の物でもない刻印が押されている。この国の音楽すべてがそうあるべき、ではない。だが、それは自然だ。

「e-mura君のプレイが根本にもあると思うけど、3人とも好みがどっか繋がってて、アイデア持ち寄っていたら、だんだん変わってきた……っていうスタイルだと思うんですよ」(MaL)。

「いちばん軸になってるのは、〈Sleng Teng〉から90年代初頭のダンスホール」(e-mura)。

「ポンピドゥーとか……マニアックですかね。シングジェイみたいな感じも好きでした。抑揚のあるスタイルが好きだったり」(MaL)。

「ジェネラルTKやトップ・キャット、メジャー・ウォーリーズ。コンピの3曲目とか4曲目とかに入っているようなDJがおもしろいんですよ。かっこいいかどうかは俺の尺度。で、そういうDJも探したっていうんじゃなくて、e-muraさんのDJで耳に残っていったもの」(ジャーゲ)。

「曲のテーマは〈最近何が気になっている?〉とか、そういう会話からある程度は2人で決めるんですけど、ジャーゲから手紙を渡される時もあります」(MaL)。

「感情が全開になっている時は、例えば“DIGIKAL ROCKERS”とか“Bounty Hun-tin' Skankin'”とか、手紙を書いてしまうんですよ」(ジャーゲ)。

 彼らの盟友であり、ダメ出しもした(された)G.RINAとの共作曲“恋のファンデーション”、軽い速さが東京のナスティーな夏の一瞬の爽快さを感じさせる“Sunshine”、ラグジュアリーだから薄っぺらくない“Yaga Yeh”、そしてもちろん表題曲も……メッセージとユーモアが混ざっている音楽に飢えている人へ。でも、説教臭いのは勘弁な人へ。未来みたいな東京が好きな人へ。過去にしがみつかない人へ。そう、すべての明日の人々へ。えへ。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2007年04月26日 18:00

ソース: 『bounce』 286号(2007/4/25)

文/荏開津 広