インタビュー

LILY ALLEN(2)

そのほうが自分もステージで楽しめるし!

 まずはサウンド面から見ていこう。多数のプロデューサーを起用した前作を貫いていたのは、スカやカリプソやヒップホップといったレイドバックなビート。彼女は当時のスタイルを「太陽が燦々と降り注ぐ音楽だった」と振り返る。

「昼間の野外フェスにはピッタリの音だったけど、夜のクラブ空間ではどうも違和感があったの。だから夜に合う、ダンス色が強くてアップテンポな音を作ってみたのよ。そのほうが自分もステージで楽しめるし(笑)」。

 というわけで、今回はクールで都会的でメロディックなエレクトロ・ポップで全編を統一。これは、前作にも参加したグレッグ・カースティン(バード・アンド・ザ・ビー)に白羽の矢を立てて、ふたりきりで曲作りからミックスまでじっくりコラボした成果でもある。

「グレッグがピアノで何か弾いて、気に入ったフレーズがあれば、私がそれに合わせてメロディーを付けて歌って、少しずつ肉付けしていったの。そうやって、時間をかけながらまとまりのある作品をめざしたわ。前作はどの曲もシングルぽくてキャラが立っていたけど、今回はそうじゃない。最初から最後までアルバムが〈ひとつの曲〉として流れるように、全体像を理解してくれる人と作りたかったのよ」。

 一方、昼から夜へ模様替えしたサウンドに準じて、詞もやはり模様替え。自分の等身大の日常を軽妙に綴る前作の手法ではなく、激辛ユーモアと徹底した直球トークというウリは維持しながら(リリーいわく「自分では気付かないんだけど、過激すぎることを書いちゃった時はグレッグが警告してくれるの(笑)」とのこと)、人間関係と社会問題にテーマを絞った。というのも、その〈等身大の日常〉があまりにも非現実的になってしまったために、作詞のアプローチ変更を余儀なくされたのだと彼女は説明する。

「ほら、有名になったことで私の人生は様変わりして、いまではちょっと普通じゃない生活を送っていて、ファンのみんなとの共通点が減ってしまったの。そうなると私がみんなと共有できる話題って、必然的に人間関係や政治に絞られてくる。消去法って理想的じゃないかもしれないけど、何にしてもコミュニケートしたいのよね。私は自分にしか理解できないことは歌いたくないし、パパラッチに追われる経験をネタにしても、誰にも共感してもらえないでしょ?」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2009年02月26日 12:00

更新: 2009年02月26日 17:37

ソース: 『bounce』 307号(2009/2/25)

文/新谷 洋子