LILY ALLEN(3)
正攻法はつまらないわ!!
そんなわけで、UKチャートで堂々初登場1位を獲得した先行カット“The Fear”ではセレブリティー・カルチャーの浮薄ぶりを、“Everyone's At It”ではドラッグの蔓延を、“Him”では宗教を取り上げ、ずばり“Fuck You”では差別的な保守政党を批判。手厳しい詞を楽しげなサウンドに乗せているのも、リリーならではのヒネリだ。
「正攻法はつまらないから、もちろんワザとやってるの。でも私はメッセージを伝えたいわけじゃない。聴きたい人に聴いてもらって、ライヴに来てほしいだけ。他人の人生を変えようなんていう目的で音楽を作るべきじゃないと思うし、何らかの反応を引き出せたら満足よ」。
また、“I Could Say”や“Chinese”など恋愛を扱う曲でも、今回は自分の繊細な部分、傷つきやすい部分にフォーカス。
「私の詞はかなりパーソナルだから曲作りのパートナーとの信頼関係が大切なんだけど、グレッグならいっしょにいて安心できたわ」とリリーは言う。さらにラストでは、父親(人気コメディアンのキース・アレン)にこれまた切ないラヴレター“He Wasn't There”を捧げている。
「本人から聞いたわけじゃないけど、パパったらこれを聴いて泣いちゃったらしいわ(笑)。私にとって音楽作りってセラピーみたいなもので、音楽を介せばコミュニケーションがずっと楽になるし、家族との関係においてもそうなの。曲を書いて聴いてもらえば、直接〈I Love You〉って言わずに済むから」。
こうして幕を閉じる本作は、リリーが単なるお騒がせセレブどころか、類い稀なシンガー・ソングライターであることを世界に納得させるに十分な傑作なのだが、本人は「作りはじめた時も作り終えたいまも自信はないわ」と、拍子抜けするほど淡々としている。
「そもそも音楽活動をずっと続けていくのかわからないのよね。私は昔から出世欲に乏しくて、〈人生=仕事〉って考え方はヘンだと思ってる。〈人生=ラヴ&ファミリー〉であるべきだし、最終的には結婚して子供を産みたいから、いまのうちにできるだけ稼いでおきたいの(笑)」。
23歳にして、そうあっさりと引退をほのめかすリリー。生意気なようでごく繊細で、計算高いようでごく慎ましい夢を抱いていて、無鉄砲なようで思慮深いところもあって……。簡単には解けないミステリーだからこそ、われわれは彼女から目が離せないのである。
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