DAVID BOWIE――『Edgeland』も触発したベルリン時代のボウイが帰還?
甘さを残したまま枯れているような、落ち着きと余裕が鼻から抜けていくような歌声——まさにデヴィッド・ボウイそのものじゃないか。歌の部分だけで言えば、スタイリッシュに老いを受け入れた最初の一作『Black Tie White Noise』(93年)に似た雰囲気もあるが、あれからもう20年も経っているのだからビックリしてしまう。彼が10年ぶりのニュー・アルバム『The Next Day』で提示してきたのは、驚くべきことにそんな〈若さ〉だったりもするのだ。
とか何とか言いつつ、かの『"Heroes"』を〈超えていくべき昨日〉という素材にしたアートワークやイメージ戦略に関してはなかなか老獪なものがあるのではないか。奇しくもカール・ハイドがインタヴュー中で名前を挙げているように、ボウイのベルリン3部作は侵すべからざる金字塔とされている作品群である。特に『"Heroes"』は表題曲の人気が凄まじく、それを踏まえて接するのであれば、リスナーは良くも悪くもある種の先入観に苛まれるのではないだろうか。
まあ、実際のボウイは緩やかに年齢を重ねている真っ最中といったところで、作品自体からベルリン3部作のように奇妙なテンションは伝わってこない。イーノもフリップもいないものの、3部作と同じく気心の知れたトニー・ヴィスコンティの手腕に守られ、柔らかくも優美な歌唱のデリヴァリーは熟成されたアダルトな聴き心地の良さに溢れている。そんなわけでカールがこのアルバムをどんなふうに楽しんでいるのかも気になるところだ。
▼デヴィッド・ボウイの77年作『"Heroes"』(RCA)