インタビュー

Tahiti 80(3)

僕らはメロディーが大好きなんだ

そうして誕生したのが、グザヴィエ言うところの〈モダン・エクスペリメンタル・フリー・ポップ・ソウル・ソング〉(長い!)。ここではストリングスが象徴するクラシックで温かみがあるメロディーと、エレクトロニクスの実験的なエフェクトが優美に、そして見事にデザインされミックスされている。「今回はいろんなムードを持ったアルバムにしようと思って」ストリングスをフィーチャーしたナンバーも厳しく5曲に抑え、「全体でビッグな音なんだけど、ドラムの音ひとつとってもミックスのなかでちゃんと鳴ってるようなワイドな」サウンドがパノラマのように目の前に拡がっていく。そんななかでキーとなるのがタイトルを含め、ほかの曲名のなかにも現れる〈SOUL〉という言葉だ。

「意味は二つある。ひとつは当然ながら僕らが最近よく聴いているジャンルとしてのソウル・ミュージック。あとは単純にエモーショナルっていう意味でのソウル。“Soul Deep”“1000 Times”なんかにはクラシック・ソウルの雰囲気があるし、“Wallpaper For The Soul”や“Open Book”は、録音の段階から感情表現にものすごく重きを置いていた。ヴォーカル面でも、ドラムひとつとってもフィーリングがすごく出てると思う。そういうのって、本物でありたい、誠実でありたいって考える僕らにはとても大事なことなんだ。何ひとつごまかさない。そういう意味で〈SOUL〉って言葉は重要なキーワードなんだよ」。

その創作に対する真摯な姿勢と愛情は、アルバムのすみずみにまでていねいに織り込まれている。フランス人でありながら英語で歌っていることについて尋ねたときのこんな答え──「パーソナルなことを書いているのに、どこか別人の視点で書いているような感覚、それがいいのかも。現実離れした世界で音楽を作っているような感覚がね。作っているものはディープなんだけど、夢っぽいもので包み込みこまれているような感触があるのかもしれないね」──この不思議なフィルターがタヒチ80のサウンドに洗練されたエキゾティシズムみたいなものを作り上げているんじゃないだろうか。

そういえば作家のサマセット・モームがタヒチを訪れた時、ふとしたきっかけで、ゴーギャンが原住民の家のドアに描き残した絵を発見している。お世話になったお礼としてそこに描いた美しい女性の絵。タヒチ80が描いたこの〈ソウルのための壁紙〉も、そんな日常的で親しみやすいアートだ。そこにはゴーギャンの絵と同じ、ロマンティックな成分がたっぷりと含まれている。だからこそこのアルバムは、時を越えて愛され続けるに違いない。そんな予感がここにはあるのだ。

「僕らはメロディーが大好きなんだ、それなしじゃ生きていけないほどにね。たぶんそんな人は世の中に大勢いる……と思いたい。だからこれからもメロディーの実験をバランスを考えていきたいんだ。僕はとっても楽観的な人間なんだよ(笑)」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2002年09月26日 12:00

更新: 2003年02月13日 10:58

ソース: 『bounce』 236号(2002/9/25)

文/村尾 泰郎