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インタビュー

The White Stripes(2)

プロトゥールズなんてクソだよ


「〈イノセント〉と〈怒り〉、〈威厳〉と〈パワー〉、〈敏感〉と〈ぎこちなさ〉、人間だったら誰でも持っている二面性。それにステージ上でひとつの生き物としての僕とメグ、そして普段の僕とメグという二面性。こうした二面性のイメージを〈象〉は持っているんだ」(ジャック)。

〈イノセント〉と〈怒り〉はバンド・カラーでもある赤と白に隠されたバンドのテーマでもある。そのテーマを象というキャラクターを通して増幅させたこの新作では、バンドの筋を通した、間違いなくホワイト・ストライプス以外の何者でもないロックンロールが掻き鳴らされている。それは彼らが住み慣れたデトロイトから離れ、海の向こう、ロンドンで初めてレコーディングを敢行したからといって何も変わらない。

「ロンドンを選んだわけじゃなくて、そこに俺たちの好きなトゥ・ラグ・スタジオがあったからさ。トゥ・ラグがアメリカにあれば俺たちはそこに行ってた。あそこにはコンピュータ関係の機材が一切ないんだ。プロトゥールズなんてクソだよ。それに素晴らしい耳と技術を持ったエンジニア、リアム・ワトソンがいたことも大きいね」(ジャック)。

 これほどまでにバンドにリスペクトされるトゥ・ラグとリアム・ワトソンとは、イギリスのガレージ・ロック・シーンを影で支えてきた精神的支柱。イギリスを代表するガレージ・ロッカーズ、ヘッドコーツ(そのメンバーでもあるホリー・ゴライトリーが、今回ヴォーカルでゲスト参加)やフレーミング・スターズはもちろん、我が国からはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが、最近ではダットサンズもこのスタジオとリアムにお世話になっている。とりあえずこのメンツを見ればその豪腕ぶりは伝わってくるが、ホワイト・ストライプスの新作でも、そのザラついたエモーショナルなサウンド・プロダクションが、アルバムに不吉で強力なヴァイブレーションを渦巻かせている。そんな新作からリリースされるファースト・シングルは、ジャックの複雑なコーラスが聴く者のハートを直撃するナンバー“There's No Home For You Here”。

「8トラックでどこまでヴォーカルを爆発的にデカくできるかやってみたかったんだ。結果的には12人の俺が重なってるんだけど、ちょっとヤリ過ぎたかなって(笑)」(ジャック)。

 ヤリ過ぎ万歳! この曲を聴くとミシシッピの古い教会でクイーンがゴスペルを歌ってるような素晴らしい妄想に浸ることができる。また毎回恒例のカヴァー曲だが、今回はバート・バカラックの“I Just Don't Know What To Do With Myself”をセレクト。

「あの曲はとても優れたブルースだと思うし、俺はバカラックの曲の作り方が大好きなんだ。コーラスも素晴らしいし、力強さがある」(ジャック)。

 ちなみにそれぞれのお気に入りを聴くと、ジャックは“Ball And Biscuit”(「スタジオで書いた曲なんだけど、すごく自然体でパワフルなんだ」)、メグは“The Hardest Button To Button”と“Seven Nation Army”(「レコーディングを終わったいまでも頭の中から離れないのよ:笑」)ということ。でも初めてメグがヴォーカルをとった“In The Cold, Cold Night”のブルージーな歌声も忘れられない色っぽさだ。

「あれはジャックのアイデアだったんだけど、いい経験だったわ。たまには声を潰してしまうこともあるけど(取材中メグはずっと咳をしていた)。最近ではライヴでも歌うようになったの」(メグ)。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2003年03月27日 17:00

更新: 2003年04月17日 17:01

ソース: 『bounce』 241号(2003/3/25)

文/村尾 泰郎