Lil Wayne(3)
新しいキング・オブ・ポップへ
これだけの注目もあってリリース前からクラシック化が内定していた『Tha Carter III』は、その期待を軽く凌駕する圧倒的なクオリティに仕上げられている。オートチューン人気にすかさず乗っかった先述のNo.1ヒット“Lollipop”、中毒性の高いミニマルな“A Milli”、現行のマイアミ・ムーヴメントにキャッシュ・マネー流のライト・バウンスをミックスしたような“Got Money”(プレイン・スキルズとT・ペインの共作)……と、それぞれタイプの異なるシングル群だけでなく、新旧キングが対峙したジェイ・Zとのジョイント“Mr. Carter”やベイビーフェイスが参加したポスト・ヒップホップ的な“Comfortable”(カニエ・ウェスト作)、スウィズ・ビーツによるモダン・ジャズ風味でコンセプチュアルな“Dr. Carter”、ファニーなループで奇妙なグルーヴを構築したデヴィッド・バナー製の“La La”、そして意外すぎるベティ・ライト(マイアミ・ソウルの重鎮)の参加とハードなギター使いが最高にクールな“Playing With Fire”など、ズラリと並んだ楽曲群に統一性などはまったくない。しかし、それでイイのだよ。いまのウェインの破竹の勢いを体現するには統一感など必要のないものだし、絶対的なステイタスを得てもなお守りに入ることなく果敢に攻めの姿勢を貫くウェインの魅力は、今作にこそ詰まっているのだから。そんなウェインがいまのポップ・ミュージックのスタンダードとなったいま、彼が手に入れるべき残された称号は〈キング・オブ・ポップ〉だけなのかもしれない。
▼『Tha Carter III』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
- 前の記事: Lil Wayne(2)
- 次の記事: リル・ウェインはベスト・ラッパーである