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インタビュー

UKバンドにつきまとう〈3枚目のジンクス〉って何?

 UKロック界においてアルバムを3枚発表することはなかなか困難なようで、ストーン・ローゼズを例に出すまでもなく、2枚で解散してしまうバンドは後を絶たない。〈2枚目のジンクス〉とはよく耳にするが、しかしあえて断言しよう! UKロック界で鬼門となるのは〈3枚目〉だということを!! ここに辿り着き、成功したバンドは以降の生存率が異様に高くなるのだ。つまり〈3枚目〉は、バンドにとって将来を左右する重要な作品なのである(プライマル・スクリーム『Screamadelica』とかブロック・パーティーの新作とか!)。ということで、ここではその動きが顕著になったブリット・ポップ以降に的を絞って、〈3枚目のジンクス〉を考察したいと思う。

case-1 : BLUR

91年のデビュー作『Leisure』(Food/EMI)で、キラキラと透き通るようなサウンドを聴かせてくれたブラー。登場時はローゼズの影響を色濃く反映させた〈マッドチェスターをかじったお坊ちゃん〉という印象が強かったが、2作目『Modern Life Is Rubbish』から徐々に変化を見せはじめ、そして〈3枚目〉となる94年作『Park-life』(Food/EMI)で世界的な成功を収めることに。

〈ブリット・ポップの金字塔〉と言われるに相応しく、カラフルでポップで実に英国的なメロディーを持った同作は、デーモン・アルバーンの捻れたセンスとパンキッシュなサウンドが見事に融合した素晴らしい一枚。〈3枚目のジンクス〉を味方につけて大化けした好例と言えよう。

case-2 : OASIS

一方、ブラーのライヴァルとされたオアシスは対照的。95年の2作目『(What's The Story)Morning Glory?』(Creation)を発表し、当初こそプレスから酷評されるも蓋を開ければ全英チャート1位を獲得。UKのアルバム・セールス記録を更新するなど歴史に残る名盤となる。

そして、人気絶頂の97年に問題の3作目『Be Here Now』(Creation)が投下されるのだ。解散説も飛び出すほど最悪の状態で制作されたせいか、全曲長くてとにかくヘヴィー! 登場するやいなや〈問題作〉から〈駄作〉と評価は一転したが、ブリット・ポップの終焉を告げた意味でも重要盤であり、掃いて捨てるほどバンドがいた時代にキッチリ〈3枚目〉を出せた彼らはやはり偉大なのではないか。

case-3 : RADIOHEAD

昨今のUKシーンに蔓延る〈デビュー至上主義(登場時にどれだけ話題を振り撒くか)〉な風潮に比べると、レディオヘッドの登場は実に地味だった。93年の初作『Pablo Honey』(Parlophone)ではシングル“Creep”こそ話題になったものの、アルバムのセールス/評価は共にパッとせず……。

そんな彼らが現在の地位を確立したのが、〈3枚目〉となる97年作『OK Computer』(Parlo-phone)だ。エイフェックス・ツインなどに強い影響を受け、痛烈に切なく美しいメロディーを奏でたギター・ロックとエレクトロニクスの融合ぶりは、いま聴いても新鮮そのもの。実験を繰り返し、着実に音楽性の幅を広げてきた以降の活動を予見させる、歴史的な〈3枚目〉である。

case-4 : COLDPLAY

レディオヘッド・チルドレンであるコールドプレイは、2000年のデビュー作『Parachutes』(Parlophone)でいきなりUKチャート1位を獲得。この時すでにお馴染みの繊細で叙情的なサウンドは確立されていたが、続く2作目『A Rush Of Blood Head』ではピアノを押し出した泣きのバラードを連発し、USでも成功を収める。

そして〈3枚目〉の2005年作『X&Y』(Parlo-phone)で、さらなる高みへ到達することに! クラフトワークあたりを思わせる電子音+壮大なロック・シンフォニーは、世界17か国で1位を記録するほど熱狂的な支持を得た。彼らが〈2000年代にもっとも成功したバンド〉と言われるに至ったのは、この〈3枚目〉のおかげ。

case-5 : THE LIBERTINES

たった2枚のアルバムで解散したにも関わらず、いまなお多くのフォロワーを生み続けるリバティーンズ。2002年にリリースした『Up The Bracket』(Rough Trade)で鮮烈なデビューを飾るも、その直後にバンドはヴォーカルのピート・ドハーティの深刻なドラッグ問題に直面する。

結局事態は好転することなく、なんとか2004年に2作目『The Libertines』(Rough Trade)まで漕ぎ着けたものの、同年に解散という最悪の事態へ。時代の寵児とされた彼らをもってしても、〈3枚目のジンクス〉には勝てなかったわけだ。ちなみに、メンバーのカール・バラーが新たに結成したダーティー・プリティ・シングスも2枚のアルバムを残して先日解散を表明したばかり。

case-6 : THE DARKNESS

AC/DCやクイーンなど70年代のハード・ロックを見事現代に蘇らせたダークネスは、ジャスティン・ホーキンスの圧倒的なパフォーマンスとブッ飛んだキャラも相まって、2003年のデビュー作『Permission To Land』(Atlantic UK)でUKチャート1位を奪取。おまけにブレア元首相までお気に入りと公言し、社会現象を巻き起こすことに。

そんな大波に乗って、2005年に2作目『One Way Ticket To Hell... And Back』(Atlantic UK)を完成させるも、翌年にジャスティンが薬物問題を理由に脱退。裏声を駆使した雄叫びを聴くことは、以降できなくなる。こうして顔役を失ったバンドは、〈3枚目のジンクス〉を打ち破れずに空中分解を余儀なくされたわけだ。

case-7 : KAISER CHIEFS

〈次期フランツ・フェルナンド〉としての期待を背負って、2005年に『Employment』(B-Unique/Polydor)でアルバム・デビューを飾り、モッドな音作りで新人レースをブッチ切ったカイザー・チーフス。いまいちインパクトに欠ける2作目『Yours Truly, Angry Mob』を経て、このたび〈3枚目〉の新作『Off With Their Head』(B-Unique/HOS-TESS)が届けられた。

これがマーク・ロンソンをプロデューサーに迎え、リリー・アレンをゲストに招くなどいつも以上にポップな一枚に。デッド60'sら同期のバンドが次々と散っていくなか、ブロック・パーティーと同様にギター・ロックの枠組みを超えて次なるステージへ踏み出そうとしているぞ!

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2008年10月30日 01:00

更新: 2008年10月30日 17:07

ソース: 『bounce』 304号(2008/10/25)

文/白神 篤史

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