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インタビュー

INTERVIEW(3)——エナジーの塊のような、プリミティヴなテクノ



エナジーの塊のような、プリミティヴなテクノ



GOATBED



——ちなみに、その好きで聴いていらっしゃるアーティストとは?

「前にちょっと、そういう話をしましたよね? ロス・エルマノスとかそういう……」

——ああ、タワーの渋谷店で偶然お会いしたときですね。最近何を買ったかという話をしたら、お互いに買ってたのがそれでした。

「そうですよね。あと、これはホントに音響の部分ですけど、ドイツのDJの人が作るような、ハードワックスとかそこらへんのもの? 2年ぐらい前に出たマルセル・デットマンがすごい好きで。全然音色が硬いわけじゃないんだけど、すごく硬質でメタリックな印象を受けるっていうか。そういうマテリアルを自分の楽曲のなかに取り込めたらおもしろいなと思って。あの周辺のものは好きですね」

——ハード・ミニマルな人たち?

「俺、初期のハード・ミニマルとかすごい好きでずっと聴いてたんで、あれがハード・ミニマルかって言ったら全然ハード・ミニマルじゃねえなって感じなんだけど、そのハード・ミニマルに関しても、今回“Hard Liminal”っていう曲があって(笑)」

——(笑)ありますね。

「(笑)で、マルセル・デットマンとかは俺の思うハード・ミニマルとは違うんだけど、でもそうとも言われてるじゃないですか。それで、そんなことも言われてるなかで、ジェフ・ミルズがもう、音源をリリースし続けてるでしょ? 最近の音源なんて別に、内容としては買わなくてもいいけども」

——まあ、作品ごとにダイナミックに変化することはないですね。

「そうなんですよね。ですけどまあ、買って聴きますけどね(笑)。で、俺、ジェフ・ミルズの初期の〈Waveform Transmission〉、ああいうのがすっごい好きで。あれって90年代のアタマぐらいですよね? 俺、15~6とかそんなもんだったのかな(〈Vol.1〉が92年、〈Vol.3〉が94年)。すごい好きでしたね。ああいうものとね、その当時はアタリ・ティーンエイジ・ライオットみたいな、デジタル・ハードコアみたいなのが流行ったじゃないですか。結構近いんですよね、やってることが。キックがドスンドスンいってて、音色は硬くて。要は、立体的な音像ではないんですよ、まったく。あれはもちろん、作った人がそのままトラックダウンしてて、エンジニアを入れてないからそういうふうにしかならないっていうのもあるんだろうけど、それがね、すごい好きで。全部の音がデカいんですよ。キックもスネアもハットも、みたいな(笑)。それがなんか……ドス!ドス!ドス!ってくる感じ? もうバカの一つ覚えみたいにそれだけなんだけど、でも〈エナジーの塊です〉みたいな、ああいうのがすごい好きだったなと思って。それで、やっぱり1年前ぐらいにジェフ・ミルズの初期のやつがいいんじゃないかと思って聴いてみたら、またハマったんですよね。それはずっと続いてて、かと言ってね、〈うーん、ジェフ・ミルズか……俺の音楽にジェフ・ミルズ、落とし込めねえなー〉みたいな」

——そこで悩んだと。

「でね、その“Hard Liminal”ってやつはね、初期のジェフ・ミルズの何曲かをモチーフにしてちょっと……ユーモア? お遊びみたいな曲なんですけど。そういうのもライヴでやろうと思ってて。俺、いままでは歌ってるだけだったんだけど、実際家にシンセなんかもいっぱいあるんで、鍵盤を弾くっていうんじゃないけど、少し演奏しようかなと思って。それ用に作ったんですよね。ライヴ・ヴァージョンと今回の音源に収めてあるヴァージョンは全然違って。で、ライヴ・ヴァージョンっていうのも実はもうトラックがあるんですよ。そっちは使っちゃいけないサンプルとかね、そういうものがいっぱい入ってるから、CDには入れられないんだけど(笑)」



音色に対する執着と愛情



GOATBED



——遊び心もたくさん散りばめてあるわけですね。そういうアイデアが盛り込まれつつ、これも先ほど話に出ましたが、今回は全体的に音数が少ないことも特徴で。

「そうですね。モノによりますけど、自分が好きで使っているようなハード・シンセを鳴らすと、録音してる段階で音色の存在感が違うんで。もう〈それだけでオッケー!〉みたいな。他の音が入ってくるとこの音色がちゃんと出なくなるから、もうこれだけでいこう!って。〈いこう!〉って言っても俺一人しかいないんだけど(笑)。バチッと一発目にベースの音を作るじゃないですか。それでいいのが出来たら、それに合った他の音を作っていけばいいっていうかね、一個一個の音色に存在感があって、邪魔しない感じで」

——だから最低限の音数で作れるっていう。

「そうですね。逆に音を増やすとね、引っ込めなきゃいけない音もいっぱい出てくるんで。この間、なぜか掟ポルシェさんのインタヴューを受けたんですけど(笑)、掟さんも、〈シンセの音が全部デカいですよね〉みたいに言ってて、〈そうなんですよね〉って。この音を上げてください、こっちの音も上げてください、ってやってって、結局全部デカくなるってことなんだけど、結構それでいいなと思ってて。こういう音楽やってる人って、音を加工するのが好きじゃないんですよ。やおや(TR-808)とか909(TR-909)とかのリズムマシーンがあるじゃないですか。なんであれを使うかって言ったら、あの音が好きで、あの音をそのまま出したいから。もちろんシミュレートしたような音源もいっぱいありますけど、そのオリジナルの音を出したがるのは、その質感がそのまま欲しいからで。だから下手なコンプかけたりEQとかかけたりっていうのは、〈いや、それ(オリジナルの音)に聴こえないからやめて!〉ってなるわけですよ。音色に対しての執着だったり愛情だったりがあるから、鳴ってる音が全部しっかりと……もう、変なとこで鳴られると困るんですよね。この音がちゃんと聴こえてないとちょっと、とか……」

——よくわかりました。とにかく、どの音も同じくらい可愛いと(笑)。

「そうそうそう(笑)。もう歌、要らないからもっと下げてくれ、ってなっていくという」

——冒頭の“D.O.G.M.A”などは、歌があまり前へ出ずに〈声〉として必要な部分に散りばめてあるような印象もありますね。

「ああ~、そうですね。うん、最近のクラフトワークと昔のクラフトワークを合体させたような曲ですね(笑)。その1曲目も、実はサントラに入ってるんですよ。BGM(Disc-2のスコア群)で入ってて、歌がないんです。それをリアレンジして、曲の尺も変えて、まあトラックは全部作り直したんですけど、そこに声、歌を乗せてっていう。サントラのヴォーカル曲以外のなかには、今後、素材として使っていこうと思ってるものが結構あって」

——となると、今作以降の楽曲にも使用される可能性が。

「そうですね。なんか俺、そういうのがおもしろいと思ってしまうんですね。自分の曲でも人の曲でも、作ってる過程で〈あれ? ここになぜかこんなフレーズが出てきてしまったぞ〉っていう。一応権利とかありますけど、まあそれが自分の前の曲だったらいいか、っていうことでとりあえず押し切っちゃいますけどね」

——そういうネタ感は楽しいですよね。他のアーティストのものを使用するのは、いろいろとクリアしなければならないことも多いでしょうが……。

「だけどクラフトワークなんて言ったらクラシックですよ、あれは」



カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2012年08月08日 18:00

更新: 2012年08月08日 18:00

インタヴュー・文/土田真弓