コーネリアス(2)
普通の生活
フミ ええ、よろしいですか? 「PLANET OF THE APE/猿の惑星」は、ご覧になりましたか?
小山田「チャンスがなくて、観れてないんですよ」
(取材陣の一部が「おおお……」とため息)
フミ ちなみに、あのティム・バートン版にコーネリアスは出てないんですが、それについて何かありますか?
小山田「いや、出てないことについてはとくに……」
山田 ところで、以前インタヴューで〈おじいちゃんの存在が気になる〉と話してましたが……。
小山田「ああ、そうなんだ」
山田 『POINT』に〈おじいちゃんの存在〉は反映されているのでしょうか?
小山田「ちょっとあるかもしれない。いつもスタジオにはバスで行くんですけど、たいがい僕が乗る時間帯のお客さんはほとんど全員おじいちゃんかおばあちゃんで(笑)。おじいちゃんとかおばあちゃんをボーッと眺めてる時間っていうのがけっこうあるんです。それで、おじいちゃんとかおばあちゃんたちは、たぶん時間の流れの感じ方とかが違うんだなっていうことを、なんとなく考えてました。そんなようなところは反映されてるかもしれない。僕がレコーディングをしてるときの日常のなかに、ちょっとだけこう、〈おじいちゃんの時間〉っていうのがあって(笑)。……普通の生活のなかで見たり、考えたりしたことはきっと、すべて反映されてると思います」
山田 なるほど。
荏開津 『POINT』には、女子の影があんまり感じられないですね?
小山田「そうかも(笑)。うん、普段、若い女の子はあんまり見てなかったかも(笑)。スタジオに通ってた間、若い女の子を見る機会ってなかった」
(一同笑)
村尾 情報量が盛りだくさんだった『Fantasma』に比べて、『POINT』では少ない音の中からリスナーがイメージを膨らませていけるような音作りに変化していると思うのですが、キッカケはあったんでしょうか?
小山田「具体的にはないですけど、いろんなことが重なり合ってそうなっていったんだと思います。まわりの環境だったり、世の中だったり、友達だったりとか、そういうことを含めて」
荏開津 では、音数を少なくするということが先にあったのではなくて、作っているうちにそうなっていったということですか?
小山田「うん。ただ、ゆっくり作りたいなってことは最初にあって。いままでは(スケジュール面でタイトなことが多く)お腹が空いてもご飯が食べられなくて、そのままやんなきゃ、とかだったんだけど、今回はそういうふうに自分をコンプレッションしないで……圧力をかけないでできる環境でやりたいなと思って。音を出すときに、その音をどうして、どうやって出すのかとか、そういうことからゆっくり考えてやりたいな、と思った。それで、自分のやってきたことをもう少しシンプルに、一回整理することになったのかもしれないです」
村松 整理したということでいえば、普通に歌のメロというか……歌ものが少なくなってますよね。
小山田「音楽をずっとやっていたら知らない間に、自分の中で決めごとみたいなことがたくさんできてて……。ドラムがあってベースがあってギターがあって歌があってみたいな……それをちょっと置いといて、全体のバランスで必要なものと必要でないものに分けてみようと思った。歌があってオケがあるっていう考え方じゃなくて、歌と全部の楽器があるべきところにある、そういうものにしたかった。それで、歌の使い方とか入れ方っていうのも、ちょっと一回考え直してみようかなって思いました」
村松 歌うことへの興味が薄れたというわけではない?
小山田「そうですね。もっと、逆に興味が出た。歌では余計なことを言わないで、まわりで鳴ってる音も含めて、全体が有機的に絡んだ状態にしたかったんです」
荏開津 そうなったとき出てくるストーリー、言葉っていうのは、たとえば〈smoke〉みたいな、抽象的なものになりますよね。そうすると、あんまりこう、〈メッセージを伝えていこう〉といった感じではない?
小山田「うん……〈smoke〉にしても、何かしろとか、何かやれとかいうことではないんだけど、その言葉が音楽といっしょに聴こえてきたときに受ける感覚みたいなもので、なにかが伝わってほしいっていうところはある。そういうことは(避けたとしても)入っちゃうっていうか……作ってる人間の考えてること、そういう意味でのメッセージは音楽にきっと入ると思います」
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2002年05月09日 15:00
更新: 2003年03月07日 17:59
ソース: 『bounce』 226号(2001/10/25)
文/荏開津 広(ライター)、フミ・ヤマウチ(ライター)、松永耕一(タワーレコード渋谷店スタッフ)、村尾泰郎(bounce編集部)、村松タカヒロ(bounce編集部)、山田蓉子(bounce編集部)